AR

ARとは?VRとの違いやビジネス活用事例をご紹介

ARとは、映像や情報を現実世界に表示させる技術です。ポケモンGOにも使われた技術で、流行りのVRと同様に、様々分野での活用が進んでいます。

ここでは、ARとVRの違いや、ARを活用したスマホアプリ、ARメガネなどのビジネス活用についてご紹介します。

AR(Augmented Reality:拡張現実)とは?

ARはAugmented Realityの略称で、日本語では拡張現実と訳され、コンピューターグラフィックス(CG)で作り出したイメージを現実世界に重ね合わせて現前させる技術です。

ARという言葉は米国、ボーイング社の元研究員であるトム・コーデル氏が1990年に初めて用いたとされています。しかし最初のARと呼べる技術はさらにさかのぼって1968年、「VRの祖」と呼ばれる科学者アイバン・サザランド氏によって開発されています。

この機器は「The Sword of Damocles(ダモクレスの剣)」というタイトルで、現在のVRヘッドマウントディスプレイのような装置です。装着するとCGによって作り出された立体が宙に浮かび、ヘッドトラッキングで頭の動きに合わせて立体も移動するというものでした。

The Sword of Damocles(ダモクレスの剣)

これ以降、VRと類似した技術としてARが発展してきました。現在では2016年に世界的な大ブームとなったスマホアプリ「ポケモンGO」をはじめ、様々な分野でAR技術が活用され始めています。

ARとVR(Virtual Reality:仮想現実)の違い

続いては、類似の技術であるARとVRの違いについて説明します。この二つの技術の最も大きな違いは、技術によって体験できる「空間」といえます。

ARは現実を拡張する技術なので、「現実世界の空間」にCG映像を映し出します。PCやスマホのディスプレイが目の前の空間に浮かび上がるイメージです。

一方でVRはCGによって「空間そのもの」を作り出す技術です。体験者はヘッドマウントディスプレイなどを用いることで現実世界から切り離され、コンピューターの作った空間に入っていきます。

現実世界にコンピューターの価値観を反映させる技術がARでコンピューターの世界に人間が入っていくのがVR技術と考えてよいでしょう。

【参考記事:VRとは?その意味とAR、MRとの違いについて

ARを活用したスマホアプリ・機能

AR技術は現在様々なコンテンツに利用され始めています。現実世界にCGを投影する技術はゲームなどのエンターテイメントのみならず、より実用性の高いコンテンツとして活用することも十分に可能です。

家具の配置シミュレーション「IKEAカタログ」

最初に紹介するアプリは、オランダに本社を置く世界最大手の家具量販店「IKEA」の「IKEAカタログ」です。家具を購入するときに部屋のスペースと家具の採寸をしたり、部屋の雰囲気と家具があっているかどうか不安になったり…といった悩みをアプリ一つで解決できるものです。

スマホカメラを利用して室内をスマホに映すと、カタログに載っている家具の3D データが部屋に映し出され、実際に家具を置いた状況を視覚的に確認できます。採寸の手間も省け、雰囲気も分かるため、家具選びの際には重宝するアプリです。

冷蔵庫の設置シミュレーション「三菱冷蔵庫AR」

引用:三菱冷蔵庫AR/Google Play

続いて紹介するアプリは三菱電機株式会社が制作した「三菱冷蔵庫AR」です。IKEAカタログの三菱冷蔵庫版と考えるとわかりやすいです。

冷蔵庫の3D データが実物大で表示されるので設置した際のサイズ感を把握することができます。ドアを開けたときのイメージも確認可能です。カメラでのリアルタイム映像ではなく、あらかじめ撮影した室内の写真に冷蔵庫のイメージを重ね合わせて設置後のイメージを確認しておくこともできます。

現実世界にポケモン出現!「ポケモンGO」

© Niantic, Inc. © Pokémon. © Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.

2016年7月に米国のNiantic, Inc. (ナイアンティック)が発表し、世界的大ヒットとなったスマホゲームアプリ「ポケモンGO」にもAR技術が使われています。スマホカメラに投影した現実世界にゲームやアニメでおなじみのポケモンが現れるのを見て興奮された方も多いのではないでしょうか。現在もユーザーが多い「ポケモンGO」は私たちにとって一番馴染みの深いARアプリかもしれません。

ポケモンはもちろん現実には存在しない生き物です。空想上の世界を現実世界に映し出せるのもARの魅力の一つです。ナイアンティックは2018年後半にはJ.Kローリング氏の大人気シリーズ「ハリーポッター」を題材としたARゲームを発表する予定で、ポケモンに続いて大きな話題となることが期待されます。

Google翻訳の「Word Lens」機能

翻訳機能もAR技術を利用すると非常に便利です。「Google翻訳」の機能の一つである「Word Lens」は、翻訳したい文章をスマホカメラに映すと、翻訳後の文章がリアルタイムで重なって表示されるアプリです。

現在は英語、フランス語、ドイツ語、日本語などの世界30か国語に対応しています。日本語に翻訳可能なのは現在英語のみですが、他の言語も翻訳可能となれば、旅行や出張で海外に行く際に非常に有用なアプリとなるでしょう。

街中にお絵描き「World Brush」

町中どこでもARを使って絵を描くことができるアプリが「World Brush」です。現実世界で町中に落書きをしてはいけませんが、このアプリでならコンピューターの世界でのお絵かきですから心置きなくストリートアーティストになれます。

このアプリの面白いところは現実世界に絵が描けるだけでなく、描いた場所にその絵のデータが残り続けるというところです。描いた絵は世界中で共有され、その場所に行けば誰もがその絵を見ることができます。GPS機能を用いて、自分の近くに他の人の描いた絵が無いかどうか確認することも可能です。

町中の絵を通じて世界中の人とつながることのできるこのアプリは新たなSNSとなることも期待する声が上がっています。現在はiOSでのみ使用可能なアプリですので、それ以外の端末を使用している方は使用できるようになる日を期待して待ちましょう。

「ARメガネ」はARビジネスの本命になるか

現在ウェアラブル端末として俗に「ARメガネ」と呼ばれるものの開発が行われています。その名の通り、かけるとAR的にディスプレイが空間に浮かび上がるメガネです。以前Microsoftが発表したHoloLensを軽量化し、メガネサイズで作ったものという認識で良いでしょう。2007年にNHKで放送されたアニメ「電脳コイル」をご存知の方はそちらのイメージの方がわかりやすいかもしれません。

工場などでは空間に工程を映し出す機器としてすでに実用化が始まっていますので、産業レベルでは活用され始めているといっても良いと思います。一方で、消費者向け市場ではGoogle Glassなどの製品が有名ですが、まだ深く浸透するほどにはなっていません。

Google Glass/出典:Wikipedia

メガネサイズになることで、スマホよりも手軽に自分だけのディスプレイを常に目の前に表示できるようになります。そのためARメガネが「ポストスマートフォン」であるという声も非常に大きいです。今後どうなっていくかは未定ですが、近い将来私たちの生活を大きく変えるかもしれない技術であることは間違いないでしょう。

医療現場での活用が進むAR

VR、AR技術は医療現場のサポート技術として期待されており、現在も研究・開発が進められています。特に手術時に現実の患者の身体に情報を重ね合わせて手術をスムーズに行うという場面が代表的な例です。

手術中は非常に繊細な技術と十分な注意力が必要とされるため、執刀医へのサポートは欠かせません。先述のHoloLensで3Dスキャンした患者の身体内部の映像をホログラムで浮かび上がらせることで、肉眼だけで確認するよりも多くの情報を執刀医が認識することが可能です。

さらに現実に確認できる映像だけでなく、手術の過程で患者に起こると予想される変化など様々な情報が必要にもなります。そのような「現実を増強する」情報を医師の前に提示するためにAR技術が必要です。VRだけでは実際には存在しないものをあると感じさせることしかできないので力不足になってしまいます。

ARによって医療技術が進歩し、患者と医師の双方に負担の少ない医療現場が作られることが期待されています。

【関連記事:VR技術の医療現場での応用・活用事例をご紹介

未来のARはコンタクトレンズか

最後にAR技術が見せてくれるかもしれない未来の話を少ししようと思います。ARメガネの話では現在のARディスプレイが小型化され、メガネサイズになるという話をしました。小型化がさらに進めば、目の中に入ってしまうコンタクトレンズサイズになるという発想は自然なもので、おそらく実現する未来でしょう。

そのとき私たちの目はディスプレイと同化し、常に現実世界のオブジェクトに情報が付加される景色を見ながら生活することができます。いつでも、目をつぶっていてもニュースや時計を見ることができ、一度でも会ったことのある人は名前が表示されるので他人の名前を覚えるのが苦手な方でも安心できる…といった世界が想像できます。しかし、未来予想としてはこれではまだ不十分です。

先ほども登場した「VRの祖」アイバン・サザランド氏は1965年に発表した論文「The Ultimate Display(究極のディスプレイ)」の中で、究極のディスプレイは空間であると捉えています。空間内に存在する物体は全てコンピューター制御でコントロールすることができるということです。

サザランドは論文に「椅子が表示されれば座ることができ、手錠が表示されれば誰かの自由を奪い、弾丸が表示されれば命を奪うことができる。」と書いています。このときコンピューターはコンタクトサイズですらなく、さらに小さな光源になり部屋の隅から目に直接情報を与えてくれるでしょう。現実世界にホログラムではなく物体を表示することができるようになるのがディスプレイの最終形態であるとするならば、ARコンタクトレンズも通過点の一つに過ぎないかもしれません。

まとめ

ARは近未来感があり、ワクワクさせてくれる技術です。ビジネスでの運用など実用的な使用方法も考えられており、医療現場などでは今後必須の技術となるでしょう。

もちろん、空間に映像が浮かび上がるというSF作品のような世界観そのものを純粋に楽しむことを忘れてはいけません。VRと同様に世界を変えていく技術として、ARにも注目していきましょう。