VR(バーチャルリアリティ)はどのような仕組みで立体的に見えているのか、知っていますか?2016年はVR元年と言われ、VRの動画やゲーム、VRを楽しむためのヘッドマウントディスプレイ(HMD)やゴーグルなど、たくさんのコンテンツや機器が発表され、VR業界が急成長しました。すでに体験したことがある方も多いでしょう。
これからさらに広がっていくことが予想されるVRについて、その仕組みを詳しく説明します。
VRが立体的に見える仕組みは?
VRは仮想現実とも言われ、実際には存在しないものがまるでそこに存在するかのように感じることのできる技術です。ヘッドマウントディスプレイを装着すれば、現実世界であるかのように目の前に別世界が広がります。これは人間の目が物体を認識する仕組みを計算に入れた上で目の前にディスプレイを設置し、頭の向きや動きに合わせて映像を見せているからなのです。それではさらに詳しく見ていきましょう。
両目それぞれに焦点をあわせた映像を表示
VRを体験するときには、両目の前に異なる2D 映像を映したディスプレイを置きます。なぜ異なる映像を映す必要があるのかというと、現実世界でも左右の目はそれぞれ少しずつ違う映像を映しており、その二つの映像を基にして、物体との正確な距離を認識しているためです。ただし、目の前にディスプレイを置いただけでは実際の世界のような
正確な距離感や大きさを再現できません。そこで、焦点を合わせるためにディスプレイと目の間に凸レンズを置くことで、認識する物体の大きさや距離を規定して、広い視野角で立体的に映像を見ることが可能となります。
映像は360°のものを使用
ディスプレイに表示される映像は360°の映像を使用しています。映像はCG技術で作られているものもあれば、360°カメラで撮影してきたものもあります。このため、VR空間では上下左右どこを見ても実際の世界のように景色が広がります。
頭の動きに合わせて映像をリアルタイムで動かす
360°の世界をよりリアルに体験するためにVRでは頭の動きを感知できるようになっていることが多いです。頭の動きに合わせてディスプレイの映像を動かすことで現実世界のようにVR内での視界を変化させることができます。
この技術はVRに欠かせないものですが、この働きが弱いと俗に「VR酔い」と呼ばれる現象が発生することもあります。
人間の目には頭の動きに合わせて眼球が動く「前庭動眼反射」という働きがあるのですが、このことを考慮せずに設計されたVRを体験すると、視界が目の動きに合わせて変化せず、現実世界との感覚の違いから気分が悪くなってしまったりします。これが「VR酔い」です。逆に、前庭動眼反射にしっかり対応できているVRコンテンツであればVR酔いが発生することはまずありません。
【参考記事:VR酔いの原因と対策について詳しく説明】
VR映像の映し方
VR映像をディスプレイに表示するためには主に2つの方法があります。
- PCなどからHMDへ出力
- VRゴーグルにスマートフォンを装着
それぞれの違いを見ていきましょう。
PC、ゲーム機などからヘッドマウントディスプレイに出力
PC、ゲーム機などから出力するタイプのVRディスプレイにはOculus RiftやHTC Vive、Play Station VR(PSVR)などがあります。PC、ゲーム機とこれらのヘッドマウントディスプレイ(HMD)をつないでVRコンテンツをディスプレイへ出力することで、それぞれ対応のVR体験やVRゲームを楽しむことができます。
VRゴーグルやVRビューワーにスマホを装着
スマートフォンをVRゴーグル、VRビューワーに装着して体験するタイプのVRもあります。
代表的なものはGear VRなどのVRゴーグルやハコスコ、Google CardboardなどのVRビューワーです。YouTubeやHuluなどの360°動画やVRアプリをインストールしたスマートフォンをゴーグルにセットするだけで簡単にVR体験をすることができます。ゴーグルやビューワー自体はPC用ディスプレイに比べると非常に安価で入手できるのも魅力です。
没入感を生み出すトラッキング技術
VRの世界にすっかり入り込んでいると感じる感覚を「没入感」といいます。この没入感を生み出すために必須の技術がトラッキング技術です。トラッキング技術はセンサーを使って現実世界のプレイヤーやヘッドマウントディスプレイの位置や動きを感知、追跡し、VR空間内との動きを一致させる技術の事です。
トラッキング技術には3つの方式があり、カメラなどの外部センサーを利用するアウトサイドイン方式(Oculus Rift、PSVRなど)や、ヘッドマウントディスプレイなどの計測する物自体にセンサーが内蔵されているインサイドアウト方式(HoloLensなど)、さらにその二つの組み合わせによるハイブリッド方式があります。
また、頭の動きを感知するトラッキング技術はヘッドトラッキング、位置を感知する技術はポジショントラッキング、手の動きはハンドトラッキング…と感知する対象によってもそれぞれ呼び名が違います。ここでは数種類あるトラッキング技術について説明をしていきます。
ヘッドトラッキング
ヘッドトラッキングは頭の動きを感知する技術で、これにより、頭の動きや角度に合わせてVR空間内の映像が変化します。センサーが人間の首の動きとそれに伴うヘッドマウントディスプレイの動きを検出し、それに応じてコンピューターが映像を計算し直し、プレイヤーの視界に映る映像を変化させる技術になります。コンピューターの計算速度は年々速くなっていますので、リアルタイム性が失われることは、近年のVRデバイスではまずありません。高度なVR体験をするためには欠かせない技術です。
モーショントラッキング
モーショントラッキングは人間の体の動きを感知する技術で、これによりプレイヤーは自分の体を現実世界で動かしているかのような感覚になります。多くのVRコンテンツでは手や足などの自分の体がVR内でも表示され、現実世界の体の動きに応じてVR内の体が動きます。このため、例えばハンドルを握って車の運転をしている感覚や、ペダルをこいで自転車に乗っている感覚などを味わうことができるのです。
ポジショントラッキング
ポジショントラッキングはヘッドマウントディスプレイの位置を感知する技術です。これにより、体のわずかな動きに合わせて映像を変化させたり、体が傾いたときに視界も傾けたりすることができます。この技術を搭載することで、現実世界の体の動きがほぼすべてVR内に反映されるようになります。
ハンドトラッキング
ハンドトラッキングはその名の通り、手の動きを感知する技術です。この技術では手の細かい動きまで感知できるため、VR内で手を使った繊細な作業が可能となります。例えばモノを持って動かしたり、指先で銃の引き金を引いたり、といった行動をとれるようになります。この技術を使うとVR内で行える行動が飛躍的に増え、自由度が増すため、特にVRゲームのようなエンターテインメントコンテンツでは欠かせない技術になっています。
アイトラッキング
アイトラッキング技術は、プレイヤーの視線を感知する技術です。ヘッドトラッキング技術では頭の動きでしか視界を変化させることができませんでしたが、この技術によって、視線の動きだけでも視界を変化させることができるようになります。VR酔いを軽減できる技術でもありますが、現在はまだアイトラッキング技術のコストが高く、普及にはまだ若干の時間が必要となりそうです。
VRを見るために準備すべきもの
VR体験をするために必要となるのは主に次の3つです。
- PC、ゲームハード、スマートフォンなどのデバイス
- ヘッドマウントディスプレイ、VRゴーグル、VRビューワー
- コントローラー(主にVRゲームで使用)
以上に挙げたものはこの記事の中でもすでに何度か触れていますが、もう一度おさらいをしてみましょう。
PC、ゲームハード、スマホなどのデバイス
PC、ゲームハード、スマートフォンなどはVRコンテンツの再生機器として使用します。
ヘッドマウントディスプレイなどと併用することで、VR体験ができるようになります。特にスマートフォンは現在最もお手軽なVRデバイスといえるでしょう。
VRヘッドセット・VRゴーグル
ヘッドセットやヘッドマウントディスプレイ、VRゴーグル、VRビューワーは前述したように、PCやスマートフォンと併用するものです。VRと聞いて真っ先に思い浮かぶのがこれらのゴーグル類でしょう。
デバイスがPCの場合は、Oculus Rift、HTC viveなどのヘッドマウントディスプレイをPCに接続し、同梱の周辺機器を設置することでVR環境が整います。設置が完了したらSteamなどのゲーム配信プラットフォームで公開されているVRゲームで遊ぶことができます。
ゲームハード接続タイプの代表はPSVRです。PSVRはPlay Station4本体とPSVRとPSカメラとテレビが必要となります。PSカメラをPS4本体に、PS4をテレビに接続しPSVRを本体に接続すれば準備完了です。Play StationのVRゲームを楽しむことができます。
続いてスマートフォンを使用する場合です。Gear VRなどのVRゴーグルやハコスコなどのVRビューワーにスマートフォンをセットします。スマートフォンにはあらかじめVRアプリをインストールしておいてください。VRアプリや360°動画はスマートフォンの画面を半分ずつ使って異なる映像を2つ映すようになっているので、スマートフォンの中央がゴーグルの真ん中に来るようにセットしてゴーグルをつければVRが楽しめるようになっています。
【参考記事:VRゴーグルの使い方をわかりやすく解説】
コントローラー
コントローラーはハンドコントローラーやリモコン型コントローラー、ゲームコントローラーなどの種類があります。ヘッドセットの種類ごとに対応のコントローラーが違うので注意が必要です。
専用のコントローラーを使用することでVR内に自分の手を表示することができるものもあり、手を使った行動が行いやすくなります。
VR空間内の行動に関係するものですので、VRで映像を見るだけの場合にはコントローラーは必要ありません。
【参考記事:スマホVRにおすすめのVRリモコンをご紹介(iPhone・Android)】
スタンドアロン型(一体型)ヘッドセットについて
本記事でも何度か触れたOculus RiftのOculus社が2017年10月に一体型ヘッドセットであるOculus Goを発表しました。このヘッドセットはスマートフォンもPCも必要とせず、ヘッドセットのみでVRが体験できるというものです。Oculus社がプラットフォームを提供しているサムスンGear VR対応のゲームやアプリが対応ソフトとなります。付属するコントローラーはリモコン型コントローラーでリモコンの方向でポインタを動かして操作するタイプのものです。
Oculus Goにはポジショントラッキングが搭載されていないため、プレイヤーの体の移動をVR空間内での動きと一致させることはできません。ヘッドトラッキングには対応しているので、360°全体を見まわしたり、首の傾きによって視界を変化させることは可能です。
Oculus Goは接続の必要がないため、VR体験中に接続用のコードに気を取られることがありません。また、値段も199ドルと、PC用ヘッドマウントディスプレイに比べて非常に安価で手に入ります。一般発売の詳細な日程はまだ決まっていませんが、2018年早期には販売が開始される予定です。手軽にVR体験のできるヘッドセットとしてVR普及のきっかけになることが期待されています。
まとめ
VRは現在、主にゲーム分野などで普及し始めていますが、それだけに止まることはありません。VR市場は2021年には2150億ドル規模のものになると言われています。これは2017年の約19倍の市場規模です。人の五感に直接働きかけるVR技術は世界の仕組みを変える可能性をも秘めています。今後急成長をしていくVR業界からますます目が離せなくなっていくでしょう。